【管理職・中途採用トレンド 】 「転職する課長」増加と企業に必要な戦略

近年、働き手の動きが活発になっています。例えば、政府統計「転職等希望者の就業者に占める割合」によれば、直近の調査で就業者に占める転職等希望者の割合は15.3%に上り、前年から1.1ポイント上昇し、10期連続で増加しています。
また「転職者比率(過去1年間に離職経験を含む者)」は4.8%となっており、6期連続で上昇傾向にあります。

このような「働き手の流動化」の中で、管理職層(課長・部長クラス)が長く在職するという従来の前提が揺らぎつつあります。この変化は中小企業にとって大きなリスクであるとともに、採用・育成の観点からは新たなチャンスともなりえます。
この記事では、なぜ今この流れが起きているのか、そして会社が取るべき対応策を「採用」「育成」「定着」の観点から整理します。

 

なぜ今、管理職の転職市場が動いているのか?

スキルの陳腐化と学び直しブーム

デジタル化や働き方の変化が加速するなかで、管理職に求められる役割も「部下を指示・管理する」だけではなく、「変化をリードする」「新しい仕組みを導入する」というものにシフトしています。そのため、「今のままでは通用しない」と感じた管理職層が、自らのキャリアを見直す機会を持つようになっています。実際、転職等希望の増加は、こうした意識変化とも整合的です。

企業間の引き抜き競争の激化

政府統計「雇用動向調査 入職・離職・未充足求人数」(厚生労働省)によれば、産業・規模別に入職・離職の動きが明らかになっており、転職・転籍を含む労働移動が加速していることが示唆されます。
人材が市場で希少化しつつある環境では、管理職を中途で採用する企業も増えており、他社から管理職を迎える動きが活発です。

「定年までこの会社で働く」意識の変化

長年続いた「終身雇用・年功序列」の枠組みが少しずつ揺らいでおり、管理職自身が「この会社でずっといられるか」「成長できるか」という視点でキャリアを考えるようになっています。実際、転職希望者も増えており、流動化が恒常化しつつある状況です。
このように、管理職層のキャリア観・転職観が変化しており、企業はその変化を無視できないフェーズに入っています。


 

中小企業にとってのリスクとチャンス

【リスク】突然の幹部流出で組織が揺らぐ

中小企業では、管理職が一人抜けるだけで部門運営や生産体制に影響が生じるケースが少なくありません。特に、製造業・現場をもつ事業者にとっては、管理職=現場責任者・安全管理者・技能継承者という位置づけもあり、その流出は即リスクとなります。業界レポートなどでは「管理職の流動化」が指摘されており、企業としては「管理職=安定人材」という思い込みを捨て、早期警戒・次期リーダー育成・バックアップ体制を整えることが必要です。

【チャンス】他社で鍛えられた人材を採用できる

一方、この流動化は採用機会でもあります。例えば、中途採用を活用して管理職を招聘することで、これまで社内になかった視点やマネジメント経験、改善ノウハウを取り込むことが可能です。特に、自社の課題(人材育成・DX・多様性など)を意識しておけば、経験豊富な管理職候補を採用できる機会となるでしょう。

 

管理職の「定着」と「採用」を両立させる3つのポイント

管理職への「フィードバック面談」を定期化する

管理職層は「部下を評価・指導する立場」であるため、自身が評価・成長を支援される機会が相対的に少ない傾向にあります。実際、政府統計で転職を希望・実施する割合が上がっていることからも、管理職自身のキャリア意識の高まりが裏付けられます。定期面談で「今後のキャリア」「成長したい方向」「働き方の希望」を話す場を設けることで、離職を早期に察知・防止できます。

キャリアパスを「見える化」する

中小企業では「課長 → 部長 → 役員」のキャリアが描きにくい場合があります。すると「この先が見えない」という管理職の不満が定着阻害要因になりえます。キャリアパスを明示し、「この先どのような役割を担えるか」「どのように成長できるか」を提示することが重要です。

報酬・裁量・責任のバランスを整える

管理職の離職理由には「会社の将来性」に対する不安が上位にあり、待遇(給与)面だけでなく、裁量や役割の実感が重要であることが示唆されています。政府統計「転職等希望者」「転職者比率」などの動きが背景にあるとともに、管理職にとって「任されているという実感」が定着やモチベーション維持に寄与します。報酬制度や職務権限の明確化、成果や成長に伴う役割拡大の提示が望まれます。

 

これからの管理職は「育てる人」から「学び続ける人」へ

従来の管理職像では「部下を育てる/チームをまとめる」スキルが中心でしたが、今後は「変化に対応し続ける」「学び続ける」「新たな仕組みを創る」能力が問われます。管理職自身が自ら学び、変化をリードできる人材としての役割が、企業にとっての戦力となります。企業側もそれを支援する姿勢が重要で、外部研修・eラーニング・社内勉強会など「学びの場」を用意することで、管理職のキャリア意欲やエンゲージメントを高めることが可能です。

「転職する課長」がもう例外ではなくなりつつある現在、企業が取るべき姿勢は「優秀な管理職を引き止める」だけでなく、「共に成長できる環境をつくる」ことです。管理職のキャリア観が「終身的」から「流動的・成長志向的」へ変わる中、企業としても「採用」「育成」「定着」を一体化して戦略的に取り組むことが、今後の競争力を左右します。

管理職のモチベーションと定着率を高めた組織こそ、変化の時代を勝ち抜く力を持つのです。

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※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。