精神障害の労災認定、急増中!「安全配慮義務」は大丈夫ですか?

近年、精神障害による労災請求・認定件数が、過去最多を更新し続けている事実をご存知でしょうか。令和6年度「業務災害にかかる精神障害の労災補償状況」によりますと、請求件数が3,780件となり、5年前に比べて1,700件以上も増加しております。
これは、もはや特別な業種や職種に限った話ではなく、全ての企業にとって無視できない経営リスクとなっています。
「うちの会社に限って、そんなことは…」
もし、そうお考えでしたら、ぜひこのままお読みください。
今回は、精神障害の労災認定がどのような基準で判断され、企業にどのような影響を及ぼすのか、そして、企業として今すぐ何をすべきかを使用者目線で徹底解説します。
なぜ労災認定されるのか?使用者目線で見る「3つの判断基準」
労働基準監督署は、主に以下の3つの基準に照らして業務との関連性を判断します。企業として「どこを見られるのか」を正しく理解することが、第一歩です。
認定基準の対象となる精神障害を発病したか
まず、従業員がうつ病や適応障害などの診断を受けていることが前提です。従業員から精神的な不調の申し出や診断書の提出があった際に、初期対応を間違えると状況が悪化するケースが少なくありません。
業務による「強い心理的負荷」があったか
ここが最大のポイントです。発病前おおむね6か月間の出来事が客観的に評価されますが、特に以下の項目は厳しく見られます。
◎長時間労働
発病直前1か月に160時間超、または3週間に120時間超の極度の長時間労働。
発病直前2か月連続で月120時間以上、または3か月連続で月100時間以上の時間外労働。
上記に至らなくても、月80時間を超える時間外労働は、他の要因と合わさることで心理的負荷が「強」と判断される重要な要素です。36協定の範囲内であっても安全ではありません。
◎ハラスメント
セクハラ、パワハラ、マタハラなどの被害。
企業にはハラスメント防止措置(相談窓口の設置、研修の実施など)が法的に義務付けられています。これらの対策を講じていたか、そして実際に機能していたかが厳しく問われます。
◎その他
会社の経営に影響するような重大なミスの発生とその後の会社の対応、本人の意思に反する配置転換・退職強要、達成困難なノルマや上司・同僚との継続的なトラブル等も認定の判断要素となる可能性がございます。
業務以外の要因との比較
調査では、従業員の私生活での出来事(離婚、病気など)も確認されますが、それで企業の責任がゼロになるわけではありません。むしろ問われるのは、「企業として、業務上の負荷を軽減するための適切な配慮(安全配慮義務)を果たしていたか」という点です。
労災認定が企業に与える、深刻な影響とは?
万が一、労災認定されてしまった場合の影響は、単に労働保険料が上がること(メリット制)だけにとどまりません。
民事上の損害賠償請求やレピュテーションリスク、人材の流出と採用難、行政対応に多大な時間と労力を要する等、企業の存続そのものを揺るがしかねない、重大な影響を及ぼします。
今すぐ取り組むべき!「予防」こそが最善の策
では、企業はどうすればよいのでしょうか。以下の3つの対策を、今すぐご確認ください。
労働時間の客観的な把握と管理の徹底
勤怠システムやPCログ等で、サービス残業を含めた正確な労働時間を把握し、長時間労働を是正しましょう。特に管理監督者を含め、労働時間の「見える化」は急務です。
「ハラスメントは許さない」という実効性のある体制づくり
単に窓口を設置するだけでなく、定期的な研修等を実施し、相談者が不利益を被らないことを保証するなど、実際に機能する仕組みを構築・周知することが不可欠です。
「不調のサイン」を早期発見し、対応する仕組みづくり
管理職による1on1ミーティングを定着させるなど、コミュニケーションを活性化させ、従業員の小さな変化に気づける環境を整えましょう。
メンタルヘルス対策はコストではなく「未来への投資」
従業員のメンタルヘルスを守ることは、リスク管理であると同時に、一人ひとりが安心して能力を発揮できる職場を作り、企業の生産性を向上させるための「未来への投資」です。
労務管理体制に少しでも不安を感じたら、ぜひ一度、社会保険労務士法人かぜよみにご相談ください。客観的な視点で、課題解決をサポートいたします。
※本記事の記載内容は、2025年9月現在の法令・情報等に基づいています。