【2026年施行予定】公益通報者保護法改正

「公益通報者保護法(=以下「保護法」)」をご存知でしょうか。会社などの法令違反行為を内部告発した従業員を解雇などの報復から守ることで企業の不正を早期に発見・是正するための法律で、それにより、国民・消費者の安全と利益を守ることを目的としています。
今回は、2026年中に施行予定である保護法について詳しく解説いたします。
現行の保護法
会社にとっては、法令違反行為等をマスコミ等の外部機関に公表されると信用や信頼を大きく貶められ回復困難な状況に陥る可能性があります。
一方で、従業員は雇用契約上、「正当な理由なく、会社の名誉・信用を毀損したり、利益を害する行為を行ってはならない」という誠実義務を負っています。
よって、無闇矢鱈な内部告発はこの誠実義務に違反するとして通報者自身が懲戒処分等の対象になりえます。
このあたりの線引を現行の保護法はどう見ているのでしょうか。それは、
①通報対象事実(法令違反行為等)が真実であること≒嘘や噂話ではなく真実であると信ずるに足りる理由がある
②公益性があること≒個人の恨みや金銭等のゆすり目的等でない
上記を満たす場合、少なくとも「会社内部の通報部署や窓口へ通報」を理由に解雇等の不利益な取り扱いから従業員は保護されます。
さらに上記に加え、「その内部通報を行うことによりやはり解雇等の不利益な取り扱いを受ける」や「通報日から20日を経過しても調査通知がない」など、一定の要件を満たした場合には「マスコミ等の外部機関への通報」に対しても不利益な取り扱いから保護することで冒頭の目的を確保しようとしています。
ところが、近年、現行の保護法では「通報者を守りきれない」「組織のトップが不正に関与すると内部通報制度が機能しない」という現実を突きつける事件が相次ぎました。
最も、社会に衝撃を与えたものは兵庫県知事によるパワハラ・内部告発問題です。これは、県の職員(元局長)が当時の兵庫県知事のパワハラや贈答品受領疑惑などを告発する文書を一部の報道機関へ配布したものです。
この告発に対して知事は「嘘八百」と断じ上記①を否定(=通報対象事実ではない)したうえで、犯人探しを行った末、その元局長に対し服務規律違反であるとし懲戒処分を課しました。
つまり、通報対象者本人がその通報が「正当」なものかどうかを判断できてしまうことが現行の保護法の大きな抜け穴でした。この場合、「正当であること」に持っていくためには裁判等を経る必要があり時間と労力、お金など多大な負担が通報者本人にのしかかります。つまり、「裁判で勝敗が決まる前に、組織トップの強大な権限によって、通報者を物理的・精神的に追い詰めることができてしまった」わけです。

改正のポイント
今回の改正ではこれらの不備を踏まえ、「通報者の保護」と「企業へのペナルティ」が格段に強化されることになりました。
改正のポイントは以下のとおりです。
①報復への刑事罰導入:通報を理由とした解雇や懲戒等不利益な取り扱いを行った経営者ら個人及び法人に刑事罰を科す。
②「犯人探し」の禁止:正当な理由のない通報者の特定・探索や通報の妨害を法律で明確に禁止。
③保護対象の拡大:フリーランス(業務委託契約終了から1年以内の者含む)新たに保護対象へ。
④立証責任の転換(報復の推定):通報後1年以内の処分は「報復と推定」。無実の証明は会社側の義務に。
⑤行政権限の強化:体制不備への立入検査を導入。是正命令違反への罰則も強化。
さいごに
兵庫県事案で露呈した「トップによる独断の犯人探しと報復」は改正により抑止されることになります。「犯人探しの禁止」で特定を阻み、通報後1年以内の処分を「報復と推定」して立証責任を組織側へ転換、さらに報復を行った本人への「刑事罰」導入により権力者の暴走を抑止し、通報者を守り切れない「法の抜け穴」を解消します。
よって、これまでの会社としての内部通報への対応のあり方も再度検討する必要が出てきます。例えば、懲戒規定や通報者保護規定の見直し(通報者への報復行為を厳禁する旨を明文化など)、犯人探し防止のための周知や研修、相談窓口の独立性の確保等の対応が必要になるものと思われます。
※本記事の記載内容は、2026年2月現在の法令・情報等に基づいています。
