今年4月から有期契約者の労働条件明示ルールが変更されます

2024年4月から労働条件明示のルールが変更されることをご存知でしょうか?労働条件の明示は労働基準法で義務付けられています。違反すると罰則が科される可能性があります。また変更を知らずに労働者と契約を結ぶと後々大きなトラブルにつながる可能性もあります。

今回は新しく追加される有機契約労働者の労働条件明示事項について説明していきます。

 

労働契約更新上限の明示

労働契約の期間を定めて雇用される有期契約労働者について、その契約の更新や期間満了時などの場面では、しばしばトラブルが発生します。労働者側は契約の更新を希望している一方で、会社の意向はそうでない場合などです。
特に、労働者自身が次回も契約が当然に更新されるであろうと「期待」を抱いている場合は要注意です。これは、何度も有期契約を更新していたり、更新手続きが厳格に行われていなかったり、あるいは契約の更新や正社員化を確約するような言動を会社が行っているなどが主な要因です。
このような場合、安易に有期契約満了を理由に会社が契約更新を拒絶すると、その拒絶に合理的な理由が見出し難い場合は「解雇権を濫用した」とみなされる可能性があります(=雇止め法理:労働契約法第19条)

 
こうしたトラブルが背景にあってか、有期契約労働者の契約の締結時および更新時に労働条件明示事項として書面等で「更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)」があればそれを明示することが令和6年4月より必要となりました。また、その後の更新時などにこの上限を引き下げる場合や新たに上限を設ける場合はその“理由”の説明が必要です。

 
この上限については特段の事情がない限り、後述の不意な「無期転換申込権」の発動を避ける意味でも、基本的には5年以内の上限を設ける方法で対応すべきです。しかし上限を設けたとしても、逆にそこまでは契約が継続すると期待を抱かせる可能性も生じえます。これを考慮すると、契約締結時に(業務量や勤務成績等によっては)明示した上限よりも前に、契約が終了する可能性があることを合わせて丁寧に説明をしておくべきでしょう。

 
一方で、優秀な労働者については「正社員転換制度」を設けることにより、上限到達以後の雇用継続の方法を備えておくことも必要です。正社員化を促進する目的のキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、有期契約から正社員化を行う場合の要件の一つである「雇用された期間が3年以内」が令和6年4月より撤廃される見込みですので、合わせて活用してきたいものです。


 

無期転換申込機会の明示

更新上限を設けない場合で、複数の契約期間の通算契約期間が5年を超えることとなった場合、有期契約労働者は「無期転換申込権」を取得し、それを行使すると会社はそれを承諾したものとみなされます(労働契約法第18条)。つまり、会社に拒否権の選択の余地なく無期契約が強制されるのです。

出典:無期転換ルールについて/厚生労働省

 
この、無期転換申込権が発生する契約更新時およびその後の更新時において「転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」を明示しなければなりません(※1)。
現状、この転換申込権について何らかの知識がある方は有期契約労働者の内4割程度とされていますが、今回の改正により、このルールの浸透が促進され、無期転換を申し出る従業員の数が増えることが予想されます。

 

出典:2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?/厚生労働省

 

※1厚生労働省モデル労働条件通知書

 

無期転換後の「別段の定め」とは

無期転換後の労働条件は「別段の定め」が無い限り、契約期間を除き、従前(有期契約時)の労働条件が適用されることとなります。通常、有期契約では定年の定めをしないことから、従前の労働条件がそのまま適用されると「定年なし」となりかねませんのでそれら避ける意味でも「別段の定め」は必ず用意しておくべきです。

この「別段の定め」は主として就業規則および個別労働契約によることとなりますが、注意したいのは無期転換=正社員ではないということです。つまり、無期契約労働者用の就業規則を作成しておく必要があります。特に常時10人以上使用する事業場においては、この就業規則を作成していない場合、労基法第89条違反の成立、もしくは正社員就業規則が適用されるという予期せぬ事態を生む可能性があります。賞与や退職金の有無、休職期間などに正社員と無期契約労働者間で“待遇差”を設ける場合には、必ず整備しておきましょう。また、これら「無期転換後の労働条件」を定めるにあたっては、他の通常の労働者(正社員や無期フルタイマー)との均衡を考慮した事項を説明する努力義務が課されますので、上記待遇差が“不合理でない”ことを根拠付けるため、職務内容や責任の程度、異動の有無や範囲についても整理しておくことをおすすめいたします。

最後に

以上の対応は、有期契約労働者のみに求められるものですが、これとは別に全労働者を対象に「就業場所と業務内容の“変更の範囲”」の明示も同時期より求められます。同一労働同一賃金でいう均衡待遇や均等待遇、あるいは休職からの復職、解雇の場面等で影響を与えてくる可能性があります。
これまでよりもより具体的な労働条件の明示や説明によるトラブル防止の観点から早めの準備を心がけましょう。